#福山 #琴
お馴染みの琴の名曲『春の海』。お正月番組には欠かすことができないですね。先日ですが、実は、この曲は『春の海』というタイトルの通り、景勝地として知られるある水風景をイメージした曲でした。
広島県福山市の名所鞆の浦(とものうら)です。幼少期に視力を失った琴の奏者で、作曲家の宮城道雄が作った琴と尺八の二重奏は、宮城のルーツでもある父の出身地、鞆の浦に浮かぶ島々の情景を思い浮かべ、作曲したと言われています。
太陽の光にきらめき、穏やかに寄せては返す、波、新緑に覆われた島々に咲き誇る色とりどりの花。暖かな風の中を自由に飛び回る鳥。そんな鞆の浦を脳裏に思い描いて作り上げた情景なのです。
この名曲が生み出されるきっかけとなった福山ですが、福山は全国生産量の7割を占める琴の生産地でもあります。2010年7月に打ち上げられたスペースシャトル・ディスカバリーに登場した宇宙飛行士・山崎直子さんによって宇宙船に持ち込まれた琴も福山で製作されたことでした。
福山琴の歴史は、1619年、徳川家康のいとこ水野勝成が福山に城を築いた頃に始まると言われています。江戸時代の城下町では、武士や町人の子女の芸事が盛んであり、備後十万石の城下町・福山でも歴代藩主の奨励もあって、歌謡・音曲が盛んに行われたのです。
1800年代前半、盲目の琴の名手・葛原勾当が、備中120余りの町や村を回って、演奏を享受したことで、福山を中心に琴が生産される土壌ができたと言われています。
葛原勾当は、現在の福山市神辺町八尋で生まれました。しかし、3歳の時、流行りの感染症だった天然痘によって、葛原に失明します。
その後、9歳から琴と三味線を習い始めると、本格的に音楽で身を立てるため、11歳の時、京の都に登り、生田流。松野勾当に師事するのです。
夕方、赤く染まった港を見下ろす、かつて鞆のお城があったた高台に登ると、綺麗に整備された公園に、宮城道雄の銅像がありました。
瀬戸内の穏やかな波音に、漁船のエンジン。町家が建ち並ぶ風情から聞こえてくる夕食の仕度の音や路地を忙しげに走るスーパーカブの音。
そして、校庭で遊ぶ子供たちと競うように咲いてる小鳥たち。心地よい風に乗って聞こえる様々な音色は、宮城道雄の琴の調べのように、鞆の浦を訪ねた旅人の心を癒してくれるのです。
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